レトリック【Rhetoric】

  古代ギリシア語で弁論・話し方を意味するレトリケを語源とする。話し言葉の修辞性を意味していたが、いまではすっかり書き言葉の文体・比喩・転義という意味へ変化している。古代ギリシアの弁論術での美辞麗句的な話し方から、書き方での詩学表現的修辞性へと意味が変化する過程では、特にルネッサンス期には、表現の内容主義を阻害するものとして嫌悪や無視、非難の対象となった。日本では表現の技術として、「文辞学」「華文学」「修辞学」「美辞学」と訳され、内容表現に対しては、否定的な面も指摘された。しかし、内容を表現から離脱させ、その抽象性を重視するという立場により、これらの誤解は溶解した。そうした文学的な経緯もあり、現代ではレトリックへの再認識が容易になっている。つまり、言語・記号・コミュニケーションの1つの手段として、レトリックと詩学や論理学との関係を記号論的にとらえることで、その技巧性よりも、記号的に認識するようになっているのである。
 デザインにおいてのレトリックには、4つの見方が可能ではないかと分析している。まず、表現の技巧性と、表現内容での比喩的な意味性ということ。表現の技巧性とは、美辞的な形態表現のために、装飾における加飾と過飾の程度を制御することである。次に、こうした表現技巧が、美辞的であるか比喩的であるかという解釈。さらに3つ目は、造形の意味性である。特に造形言語は、表現に比喩性や転義的な印象を与える手法となり得る。もう1つは、デザイン表現の印象そのものを文章的に表現するときには、修辞的な表現がどうしても多くなるということである。この4つのデザインとレトリックとの関係は、デザインと記号論の関係を詳細化する基本だと私は確信している。意味されているデザインと意味しているデザインによって、その記号性の社会的な意義を確認するのに、レトリックという手法は有効なものになる。つまり、記号論としてのデザイン、または、デザインとしての記号論、この相互性を、レトリックという手法を援用することで新たな解釈が可能となり、デザイン手法と記号論をも進化させていくことができると判断している。   

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