礼節【Reisetsu】

  人間関係による社会生活の中で、お互いの秩序や調和を確認し合い、それを保全するための行動規範や礼儀、行儀を意味する。これは東西いずれの文化体系においても、秩序と相互理解に関わる、人間存在の根本であることは間違いない。また、礼節は、民族性や宗教性、社会構築の過程において、それぞれの秩序確認や関係保全のための作法として継承されてきた。特に人間関係では強い差別感覚が存在するが、これは礼節のなかで、知性ある規範の秩序性によってのみ解消される。そして、「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるように、文明的な恩恵が保証されていなければ、この作法や礼儀、行儀が、社会性を得ることはできない。現代の国際関係を考えると、国際が行こうという文化を破壊するかのような、礼節の反行動である失礼・無礼が蔓延していると言わざるを得ない。  デザインの本質は、礼節や作法ときわめて密接な連続性や連鎖性がある。かつてバウハウス時代にモホリ=ナギが、「デザインとは社会に対する態度である」と語ったように、デザインが社会における作法、つまり社会的秩序の形成に直結しているとみなすようなことができる。礼節あるいは作法は、人間中心主義デザイン=Human Centered Designの核心であるというのは結論的すぎるであろうか。人間中心主義とは、人間の主体性を優先させるということではなく、人間と環境、あるいは社会との関係、さらに人間同士の相互性、そして人間と人工物との関係において、人間が果たすべき作法を明示しようということである。礼節を失うということは、たとえば、モノを平気で捨てるというような、世界的な反社会行動と一致している。人類が最も礼節に欠いた例とは、戦争や紛争、人種差別であると断言出来る。デザインには常に礼節が包含されていなければならないということである。   

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