エルゴノミクス【Ergonomics】

  「人間工学」と訳されている。ギリシア語で仕事や労働を意味する「erg」=workと法則=lowを意味する「nommos」から英語になった言葉である。元来は戦術的学問として登場した。したがって、エルゴノミクスが目標としたのは「効果」と「安全」であった。戦闘状況で、戦闘員の体が「安全」であり、かつ「効果」ある戦果のための軍事技術の科学として登場した。軍事のための学問が科学の大きな基盤であることからも、その変化は人間主体主義になっていく。  今日の人間工学は労働成果のための科学となってきた。第2次世界大戦後には、米国では、Ergonomics は、Human Factor Engineering と呼称が変更され、その目的は、「快適」「健康」「安全」に労働でき得るための工学として変容した。それは欧州においても Ergonomics の目的に大きく影響し、使用する場合の使いやすさや、その環境の快適さや健全さのための工学となった。最近では、さらに Biomechanics=生物工学あるいは生体力学などが加わり、機器からその労働・社会環境までを総合的に捉える学問となっている。当然ながら、とりわけデザインにおいては、デザイン学を構成するうえで必須の学問となっている。ただし、デザイン造形の形態、その成立条件で「人間工学的に」といういわば宣伝コピー化されているのは、デザインに対する賛同認知を求める極めて愚直なレトリックになっている。こうした現象には、デザイン倫理的に、何を人間工学として研究し、その成果としての造形となっているのかを正確に情報伝 達していくべきである。Human Factor Engineering であれ、Biomechanics であれ、それらすべてをErgonomics に回帰して再度統合化していく必要性がある。なぜならば、コンピューターをはじめとするさまざまな機器システムの進化とともに技術と人間との剥離関係や地球環境までを使用環境としたときの人間工学=Ergonomics はさらに進化が要請されている科学であり技術であるからである。   

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