メンフィス【Memphis】

  1980年に、イタリアデザイン界のリーダー、エットレ・ソットサスを中心に結成されたデザイングループ及びデザイン運動の名称である。ボブ・ディランの曲「メンフィス・ブルース・アゲイン」がソットサスのアイデア源であり、メンフィスという言葉そのものに音楽的な印象があったために、この名称にコンセプトも集約したと言われている。当時、大量消費される製品に対して、「間抜けなデザイン」とまで言い放ったソットサスは、デザインを機能性から解放し、新たな装飾性や恣意性の求めようとした。つまり、「デザイナーがつくりたいという衝動」をそのまま産業界に訴求したデザイン運動がメンフィスである。
 この運動には日本人デザイナーや建築家も参加した。確かに一時のブームにはなったが、当時、私はこの運動を単なる「回春剤的なデザイン解決」と評して、産業界を根源的には動かさないだろうと断言していた。なぜなら、デザインを造形のみで訴求しているだけで、デザインの本質と産業・商業への提言、あるいは挑発的な思想性が希薄になっていたからである。ソットサスは、デザインの本質を、造形の真摯さによって語ろうとしていたのだが、参加したデザイナーの個性的な発想を一元的あるいは統合的にするマニュフェストが不備だったために、その表現形式だけが模倣されるだけで、デザインの本質を伝えきることにはならなかった。結局、産業界を納得させることはできずに、87年にこの運動は終焉を迎えた。しかし、この運動の影響は、今なおミラノサローネの家具デザインなどには残存し、デザインと造形の関係においては多くの誤解を残していると言わざるを得ない。  

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