本能【Instinct】

  本能とは、生まれ持った行動やそのタイプ、あるいは行動能力とその傾向という意味で使われることが多い。非理性的、衝動的行動やその傾向を意味している。英語のinstinctの語源は、ラテン語で内側・内面からの強い衝動という意味のInstinctosである。人間は本来、理性で行動するが、動物は衝動的に行動する、という古代からの基本的な考え方に根差した言葉だった。しかしダーウィンの進化論以降、人間も動物と同様に種々の衝動的な行動を持つと考えられるようになった。この考え方を社会心理学の基礎に置くことで構成されたのが、マクドゥーガルの本能説である。彼は、逃走本能・拒否本能・性本能・群居本能・同情・被暗示性など、本能を10種類に分類することで、人間の日常的行動の説明を試みた。その後は、フロイトが特に衝動的傾向を取り上げて、自我本能と性本能という側面から、攻撃本能を詳細に分析している。こうした研究で明らかになっているのは、行動が自我と動機付けのどちらに起因するかという問題である。
 デザインという営為、つまりデザインをするということも、人間の本能的行動であるという説が、デザインの定義においてしばしば見られる。しかし、これは大きな誤りであると私は考えている。確かに、人間が道具を発明するということが、本能的な行動であるという説明は説得性を持っている。が、デザインとは、生得的な傾向やものづくりへの衝動からなる、意図的な営為であるとは言えない。むしろ、生得的な行動や傾向を刺激する装置としてデザインが利用されているということは言えるだろう。例えば衝動買いをさせるための、刺激としてのデザインは、その役割が確かに経済活動の支援的手法としてあり、リビドーという性的欲動が贈与や購買の根底にあったりする。これらはデザインの商業主義を構造化しているという説がある。本能と感性の構造的関係は、デザインの感性学的テーマでもあると考える。   

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