暴力【Violence】

   この言葉は、あまりに幅広くそして曖昧に用いられている。しかし、その曖昧さのなかで、暴力の構造は、人間社会における最大の問題である。その質は変貌と拡大を遂げてきた。戦争は暴力の世界的な形式である。と同時に、家庭内暴力やいじめなど、その形式はあまりにも多様になっている。が、暴力を全否定するための社会的な方法論は全く開発されていないと考える。一般的には、他者に対しての有害で直接的、意図的な行動を攻撃と呼び、この攻撃性が暴力の内容である。政治的な定義では、暴力とは、正当性や合法性を当初から意図的に欠落させた物理的な強制力である。何らかの目的達成のための、意思の強制であるとされていることが多い。しかし、直接的で強制的な目標達成だけを意味しているわけではない。抑圧、差別、無視、心理的な圧迫などにまで、暴力の概念は拡大していることが明白だ。ここに本来の暴力の概念規定がある。したがって、暴力という言葉、あるいはその言葉の運用にあたっては細心の注意が必要であり、単純な平和願望に対する避難的な言葉ではないことを認識しておくべきだ。
 デザインにおいても、デザイン表現が何らかの攻撃性や不当性を持つことによって、ことさらそのデザイン価値を顕示しようというような場合、それをデザインの暴力性と断言することができる。むしろ、デザインが暴力性を内包しているとするなら、それはデザインと呼ぶわけにはいかない。デザインはどんな事情や環境に取り囲まれようが、暴力を排除する営為として、その効用価値がある表現形式でなければならない。つまり、対暴力、さらには暴力の全否定を意図することに、デザインの本質があるのだ。   

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