弁証法【Dialectic】

   仮説的命題をまず掲げる。その仮説から、ある帰結に至れば、それが仮説的命題そのものの当否を決定することになる。弁証法とは、この論理的手法・対話による仮説演繹的な問答法を意味する。ソクラテスの問答的対話術からプラトンは、公理的な前提を基にした幾何学などの理論と区別し、弁証法そのものが哲学的方法であるとした。ソクラテスとプラトンが、仮説という方法論を提示したのに対して、アリストテレスは、原理から仮説という方法論を表した。そして18世紀になると弁証法は論理学と同義となっていった。これらはカントやヘーゲルを経て、マルクスとエンゲルスやスターリンの思想構築の下敷きでもあった。しかし、G.ルカーチを中心に、主体と客体との実践的論証学としての弁証法が主張されるに至り、この文脈からキルカゴールや、K.バルトなどの論証方法が生まれた。
 デザインあるいはデザイン手法における、弁証法や弁証法的な思考実践過程を通して、その論理的基軸、つまり仮説と原理の関係が動いていると考えている。少なくとも、デザインは弁証法によって、仮説と原理を交互に反復させることで、デザイン対象とその効用領域への問いかけを常に行っている。結果、演繹的な回答や解答を得、デザインの具現化に繋がっていくのだと考える。たとえ、その問答が帰納的であったとしても、デザインによる本質的な解答はあくまでも客体であり、客観的な仮説意識と原理設定を客体としてデザイン対象にしているのである。したがって、デザイナーの主体性または主観性が観念的であったとしても、デザインされたモノやコトは、客観的な平価でのみ、その価値が決定される。そして、その平価そのものが問答であり、なおかつ客体となっていなければ、デザインそのものが成立していないことになる。デザインとその効果とは、弁証法的な論理性によって解答となって表れ、意識化されるものだと断言しておきたい。   

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