ノスタルジー【Nostalgia】

  全く知られていないとは思うが、本来は医学用語である。17世紀末、スイス人医師、J・ホッファーが、祖国を離れた人々が精神的な衰弱を呈する病に関して、その精神的苦悩を総体的にとらえる言葉として、ギリシャ語の帰郷=nostosと、苦痛=algosからつくった言葉が起源である。しかし、今では医学用語としてではなくて、感情を表現する言葉へと変遷した。一般的には、故郷を懐かしみ恋しがる感情とされている。現代では、「故郷喪失」というような、故郷という「空間」よりも、過去という「時間」、特に、幼少時代への懐かしさという感情を表わす用語としての意味が大きくなっているが、懐かしさは、時間軸上での空間イメージと連関していると言える。社会学者、F・デーヴィスによれば、ノスタルジーには、自らのアイデンティティが危機に瀕したときに、過去を振り返ることでアイデンティティの連続性を確保し、強化をするという機能・効果があるとしている。さらに彼は、社会やその時代に覆いかぶさるようにノスタルジーという感覚が人々に浸透する状況を、集合的ノスタルジーと定義し、これには社会や時代の危機的な風潮を和らげていくという安全弁的な役割や機能があるとしている。例えば、社会的な情報の急激な高密度化に追い付いていけない人々が抱くノスタルジーが、急激かつ一方的な社会変化への調整的役割を果たすことになるということである。ノスタルジーを意図した芸術表現はもとより、デザインにおいても、モダンあるいはポストモダンを問わず、ノスタルジー的な表現や、ノスタルジック性を意図し、対象とした表現が可能である。そうした意味では、すでに医学用語や単なる感情を表わす言葉であることを超えて、その意味はかなりの深度を持っている。改めてデザインのコンセプト用語としての再定義が求められており、デザインにおけるコンセプト化が必要であると考える。   

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