アノニマス【anonymous】

  「匿名性」あるいは「無名性」という意味である。デザイナー名が明示されていたり、あるいはすでにデザイナーの有名性が公知されているモノのデザインに対して、匿名性、無名の人のデザイン、作者不明であることにのみ価値観を求める傾向は、デザインの基本的な職能の歴史観を誤解していると言わざるを得ない。これらはつまり、デザインは、産業革命以後の職能であるという定説と、モノづくりを人間が思いついたことをデザインという定説のどちらに与しているか、ということに連鎖している。 私は、職能としてのデザイナーの出現、つまりデザインの起源は産業革命以後だと定義できると考えている。よって、デザインされたモノが、アノニマスであるというのは、デザイナーという職能を社会に認知させてこなかった制度的な問題である。個人的であれ、チームであれ、デザインのアノニマス性を云々する価値論説は、きわめて、デザイン価値に対する無視、もしくは偏見にすぎない。したがって、アノニマスデザインに対しての、ブランドやスターデザイナーのデザイン価値の相対比較は、何の意味も持ち得ない。ブランド認識やイメージ戦略として、一方では有名なデザイナー表示と、もう一方では匿名的でるというデザイン価値を、モノの購入欲望の喚起手法としてきた時代には決別をつける、そういったデザイン戦略が必然となってきている。もはや作者不明ということは、製作や生産に対する責任の放棄と考えるべきである。 アノニマスデザインの存在は、考古学的に残存したモノの骨董的価値に見ることができ、これは博物館に収蔵されるモノにはなり得るだろう。が、作者やメーカーが表示されないモノの存在は、製造物責任を果たさないことの証拠になり得るとさえ考えられる。ブランドとアノニマスの対極的な対比は、時代的な検証にしかなり得ない。もし、これからアノニマスデザインが登場してくるなら、それは生産・流通・消費・廃棄・回収というリサイクルシステムのなかで構築されるかもしれない。

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