ユニバーサルデザイン【Universal design】

    この言葉が、日本で流行語になったのは、1997年のグッドデザイン賞(Gマーク)において「ユニバーサルデザイン賞」が設置されてからである。ハートビル法、ノーマライゼーション、バリアフリーなどの呼称は、少数派といわれてきた領域を、デザインの対象にしているようだが、実は、デザインそのものの本質を語り直しただけにすぎない。デザインの本質を浮かび上がらせるという点においては、確かに行政から市場経済に対して、一般的な認識を促すことができた。しかし、流行語となったことで、以降、現在に至るまで、その本質は見失われてしまった。この言葉は、ノースカロライナ州立大学の教授だった、ロン・メイスンが提唱したものである。彼による7原則論が基本と考えられているが、それは米国中心の考え方にすぎない。日本では、1989年の世界デザイン会議で、NASAのデザイナーであった、故マイケル・カリルが初めて提唱している。元々は、WHOの国際障害者年(1980年)のための、メイスンのレポート「バリアフリーをめざして」(1970年)で登場した言葉といわれているが、一方では、カリルによる、先進国家特有の消費経済主義に偏った訴訟社会批判の意味を持った言葉であり、メイスンにも影響を与えたと私は考えている。その後、クリントン政権時代に福祉行政の民営化を検討するにあたって、NPO「アダプティブ・エンバイロメント」という組織が、監督・訴訟・運営・教育のためのコンセプトとして、ユニバーサルデザインを掲げ、世界的なデザイン用語になった。日本では、高齢化社会を迎えるにあたって、商業的・行政的に最もふさわしい言葉として重宝されている。「誰でもが使いやすいモノやコトのデザイン」という定義が一般化してしまったことは、この言葉の本質を訴求するうえでは、大きな誤用であったと指摘しておきたい。7原則である、公平性・自由性・単純性・省力性・安全性・情報性・空間性は、我が国においては、その内容を大きく変容させる必要がある。まして、「誰もが使えるモノ」などあるわけがなく、高齢者や幼児、障害者すべてに対するデザインが、いわゆるユニバーサルデザインそのものの本質において、デザインの理想主義の確信を強調させた意味を持っているだけである。この意味が重要である。7原則は、デザイン思考における根本原則として、それぞれのデザイン目標を明確化する上での1つのデザイン評価軸にできると考える。さらに必要なのは、この流行語を、「ヒューマン・センタード・デザイン」という言葉による再定義によって、その本質をもっと訴求することである。   

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