人間工学【Ergonomics】

  人間と機械や機器、機具などとの整合性や適合性を工学的に解決しようという人間科学である。第1次世界大戦の頃から、この研究はスタートしている。Ergonomics、あるいはHuman Factors Engineeringなどに対して、心理学者の松本亦太郎が初めてこの訳語を用いた。本来は軍事技術的な要素の学問から出発している。この学問の骨格は人間と機械の関係、つまりマン・マシン・システムであり、人間の身体的かつ心理的側面との関係性における人間科学であったが、最近では、さらに人間と情報や環境との関係性までがその中に含まれ、感覚性や信頼性の学問へと進展しようとしている。マン・マシン・システムから、マン・マシン・インターフェース・システムとして、安全性や信頼性、能率性、さらに疲労の軽減から意欲や満足感などという、主体性の獲得や創造性の発揮によるやりがいなどの意識性の確立までを含むシステム論としての展開が期待されている。 デザインにとって人間工学は、使い勝手や快適環境の設計要素学として、基礎的な人間科学になっている。しかし、「人間工学的に云々」という常套的な言い方があるわりには、まだその基盤的な裏付けとなる人間・機械システム論の体系化が成し遂げられていないことも事実である。その最大の理由は、人間という主体性を把握することの困難や複雑さである。さらに人間工学を、何を対象とした学問にしていくかという論議が不十分であることも認めておかなければならないだろう。そこで、情報科学的あるいはバイオメカニズム的なアプローチから、人間工学の再編成が必然となっている。つまり、人間科学的な要因からだけではなくて、環境科学や生態科学から人間を再度定義付ける人間中心主義的なアプローチが求められていると考えられる。言い換えるならば、人間工学がこれまでのシステム論的な展開から解放されなければならないのである。人間という主体に対する客体としての環境など周縁との相互的かつダイナミックスな展開論が今後の人間工学になっていくのではないかと考えられる。   

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