ナレーション【Narration】

  話し方、話法、そして話術のことである。この意味から拡大し、映画やテレビなどで、画面外から登場人物の心理やストーリーの解説を語る、ナレーターという役割や職業を指す。 話法とは、「語り」に由来する。語りとは、口頭的言語活動であり、カタルの名詞形である。カタルはイフ=言うとツグ=告ぐという平常の発話とは異なる。物語り=ナラティブとほぼ同意義性があると考えていいだろう。また、カタル=語るから「騙る」という、人をあざむく意味にまで拡大している。ナレーション、またはナレーターは、真実の語り部だけを意味しない。虚偽性のあること、虚構性をナレーションとしてつくり上げることも可能であり、情報操作による虚構性という危険性がある。 さらに、ナレーションは、単なる話し方や話術という意味を超えて、情報時代での「語り性」あるいは「物語り性」=ナラティブという記号論的な解釈と連関性のある術語として認識されている。例えば、デザインでは、モノの形態言語における“ナレーション的な存在感”ということが、「モノが語りかける」という印象性や存在性を表現する手法になり得るものと判断することができる。リオタール的な解釈を引用すれば、「大きな物語り」とか「小さな物語り」という記号論的な解釈とともに、デザインが創出する語り=“ナレーションデザイン”は、情報デザインにおける、重大なデザイン対象であり、このことは今後もっと議論されるべきことであると考える。これからは、デザインの話法的な形態表現、これをナレーションデザインという領域として、デザイン対象にしていく時代になっていくことを示唆しておきたい。   

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