素材【Material (sozai)】

  伐採し、適当に切断しただけの木材、それを素材と呼ぶ。この原意から原料そのものを指し示す言葉となった。しかし、この材料の素という意味とともに、材料の質そのものが明確であることから、単なる材料というよりも、品質性や性能性を含む意味を持っている。例えば、料理における「素材を生かす」という表現では、材料そのものの持ち味を指し示している。原料の質がそのまま断言できるとき、材料というよりは素材という語のほうが、その材質までの意味をはっきりと伝えることができる。 原料・材料という意味から、芸術作品や表現行為での題材を、素材と呼ぶようになった。表現するための材料、それは現存する物質的なものやイメージの源のことであり、それらの質性や素性までの意味を込めて素材と呼ぶことができる。「作者自身の体験を素材にしている」というような言い方には、単なる題材という以上に、その材質感を含んだ意味合いを強く持っている。このように、自然原料の程度から人間社会での人事までを言い表す比喩的な表現語として、素材という言葉が適用されるようになった。  デザインにおいても、当然ながらデザインのテーマや表現題材をデザインの素材と呼ぶ。デザイン素材という言葉には、デザインプロセスにおける、課題に回答を与えるためのヒントから、その回答を構成する要素までが含まれる。つまり、デザインという表現と問題解決の手続きにおいて、手がかりとする発想の源から題材までを言い表す言葉であると言えるだろう。   

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