文化【bunka】

  文化=cultureは、ラテン語で「栽培」「耕作」「世話」「飼育」などを意味するcultusに由来するが、さらにcultusの元となるラテン語のculterにまで遡及すると、「刃物」「鋤」「鍬」という意味に至る。このモノを指し示す原義こそが、本来、英語のcultureの定義を決定づけていると私は確信している。日本語において、文化とは、「衣食住が賄えて生活水準が高まっている状態=文明」から「人類の理想を実現する精神的な活動全般」を意味し、その状態は、人問に特化した「精神のあり方」や「生活様式」を総称している。したがって、この言葉は、人間の生と死とその生活全体を包含する概念であり、世界観を統合する象徴的な言葉である。よって、さまざまな領域・分野・観点からの文化の定義が求められてきたが、そのすべてを集約すれば、文化とは、人間の現実的、想像的な生活経一験によって象徴化された制度の全容である.そして、この生活体験は、少なからず集団という社会性に共有されている。対自然、対人間、対観念などの内容を持ち、これらを象徴化する営みそのものは、そこで用いられている記号の多様性に対応して、さまざまな形式をとっている。よって、文化とは何かということよりも、文化は人間とその集団=社会、あるいは時代のなかでいかなる作用や機能を果たしているかが、今日では問題となっているのである。これはつまり、人問の存在に対しての問題意識へと繋がるテーマ、あるいはコンセプトであると考えるべきである。そこでデザインは、文化あるいは文化体系に対して、3つの機能化や作用効果を成し遂げることができるものと考える。まず、ある事象への認識的な問題解決を図るためには、デザイン表現による、観念にまで及ぶ形態的な具体化こそが重要である。次に、そのデザイン表現によって、社会性のある感性的な何らかの受容体系を構築することができる。さらに、こうした生活経験の質を高めていく評価志向を持つためには、デザイン表現を通して、制度観や道徳観あるいは価値観の共有化を目指す必要がある。こうしたことを、デザインによる文化戦略、または文化戦略のデザインと定義したい。

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