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第3回 「石黒 浩」氏

アンドロイドロボットと
コンシリエンスデザイン


「KK塾2015」第3回目は大阪大学の特別教授である石黒浩氏にお願いしました。アンドロイドというキーワードから、ロラン・バルトを引用しまとめてみます。昨年は「ロラン・バルトの生誕100年」でした。構造主義者として、ディスクール=言語表現、つまり、書かれたことや言われたことの概念提唱者でした。生誕100周年記念として、まさに、ディスクールのパターンをスカーフにした表現はディスクールのデザインでした。そのパターンの原書が「恋愛のディスクール・断章」そのままのモノ。私は読み直しましたが、生誕100年にして、ディスクールでの抱擁は見事に破壊されていました。それは、アンドロイドロボットの出現でした。アンドロイドロボットは、「なぜ、人間は人間であるか」というこの難問解決のデザインだったからです。単純なロボットとして「ハグビー」があります。日本人は抱擁し合うことは照れ(若者には無くなりつつある)が残りますが、フランス人は、メールの最後にWarmest hugsと書いてきます。結局、恋愛はすべての小説の最大テーマであったと言えます。それこそ、日本最古の小説・源氏物語さえそうであったのです。しかし、無論、恋愛には言葉・言語が要らないように、恋愛の言語化構造はハグすることで一遍に改めての意味が溶解し消滅します。つまり人間にとってそれは一瞬の熱病=これは私の私見ですが、その熱病は感染して起こるのか、感染しているから熱病=恋愛でしょうか、まさに生誕100年目に断章された結果は「ハグビー」というロボット、つまり言語では無くて形態によって、結論が明らかになってしまったことです。これは言語の脆弱性を形態=ロボットが消滅させたことになります。なぜか人間は抱擁されることでコミュニケーションの新鮮度が増加されます。人工物アンドロイド・ハグビーを抱き合うことが、あの熱病=恋愛のごとくコミュニケーションを強めてしまうのです。喋りまくる子供たちはハグビーを抱きしめれば、集中力を持ち、アルツハイマーの老人の孤独感を消化してしまい、断絶した者同士が、見知らぬ者同士が饒舌に会話しあうということです。しかし、恋愛のディスクール・断章はロラン・バルトの生涯のテーマ、その一部分に過ぎませんでした。それはアンドロイドロボット・ハグビーに「作者の死」をつきつけています。ディスクールの作者が、彼の死に言説化を求めたように、アンドロイドの創作者は、どのようにその死と立ち向かうのでしょうか、ということです。

石黒 浩
日本のロボット工学者, 大阪大学特別教授, ATR石黒浩特別研究室室長
1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究室室長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現を目指し、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞、2013年大阪大学特別教授。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。